植物遺伝資源に関する国際条約の最近のニュースをお知らせします。

 

このニュースは当協議会の会員が、それぞれの条約のサイトに掲載されている会議の結果を独自にとりまとめたものです。内容については当協議会にお問合せ願います。

 

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山本理事長が、国際農林業協力 Vol.46, No. 3 通巻208 号に載せた、遺伝資源(生物資源)の利用と利益配分 ―その背景― を許可を得て掲載します。

 

はじめに

生物の多様性に関する条約(Convention on Biological DiversityCBD) は、1992 年の地球ミット(リオ・サミット)で採択された「環境保護」条約である。同条約の目的は、①生物の多様性の保全、②その構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分である。しかし、この第3の目的は、条約交渉の土壇場で条約実施のための手段から条約の目的に格上げされたもので、「CBD は「環境保護条約」から「利益配分条約」に変質した」のであった(高倉 2001, p.340)。CBD では、遺伝資源の取得時(アクセス時)に、遺伝資源の利用から将来生ずるかもしれない利益の配分を実現しようとする。遺伝資源は「現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材」と定義されており、研究開発前の遺伝資源取得時点ではその価値を決定できない。このためモノとしては全く同じであっても、取得時点で価値を決定できる一般流通品(コモディティ)のように売買することは難しいのである。研究開発前の遺伝資源を取得する際、研究者が従うべき事項は本誌の寺嶋ペーパーに説明されている。このため本稿では、寺嶋ペーパーを理解するための背景知識を読者に提供することを目的とする。

 

1.南北対立とCBD

1)鉱物資源から遺伝資源へ

CBD 15 条第1項に「各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を有する」とあるが、もともと天然資源(貿易上の一次産品)とは石油といった鉱物資源などが意図されていた。天然資源を産出するのは主に開発途上国(旧植民地)であり、それを利用した商品(二次産品)を産み出して経済的に潤うのは先進国(旧宗主国)という構図があった。開発途上国にはこうした貿易構造に対する強い不満があった。このためこれを解消する動きが1960 年代頃から強まった。開発途上国自らが、一次産品の交易条件をより主体的に決定できるようにする動きである。この結果が、1974 年に国連で採択された「新国際経済秩序の樹立に関する宣言」である(炭田 2021,p.15)。こうした貿易構造に対する開発途上国の不満が遺伝資源(生物多様性の構成要素、生物資源)を通じてCBD に流れ込んだのであった。

 

2)遺伝資源に関する南北対立

遺伝資源は、自然に恵まれ生物多様性に富む開発途上国が豊富に持つと、一般的には理解されている(ジャングルのある熱帯の国々が好例)。他方、それを利用して付加価値の高い製品を開発・製造する技術や資金は先進国に豊富である。こうして先進国が利益を享受しても研究素材の遺伝資源を提供した開発途上国にその利益は還元されなかったのである。こうした構図に起因する対立が遺伝資源における南北対立であり、利益配分がCBDの第3の目的に格上げされたのは、こうした南側の不満に対する北側の妥協であった

 

2.CBD の運用

1)ABSAccess and Benefit Sharing

遺伝資源が提供国から海外に移転される場面を想定すれば、その利用から生ずる利益を提供国に確実に配分するためには、提供国から遺伝資源が持ち出される前に、将来の利益配分について遺伝資源取得者(利用者)との間で約束しておく必要がある。このように遺伝資源の取得(Access)と利益配分(Benefit Sharing) とを一体的に扱うことをABSAccess and Benefit Sharing)と呼んでおり、1998 年のCBD 第4回締約国会議(COP4)で初めて公式な議題として扱われた(炭田・渡辺 2011, p.68)。

 

2)CBD におけるABS 関連規定

遺伝資源の利用から生ずる利益の配分は、CBD15 条が規定する。第1 項は、「(前略)遺伝資源の取得の機会につき定める権限は、当該遺伝資源の存する国の政府に属し、その国の国内法令に従う」とする。さらに同条第5 項は「遺伝資源の取得の機会が与えられるためには、(中略)事前の情報に基づく当該締約国の同意を必要とする」とする。これは単に遺伝資源の提供者と取得者が合意すればよいのではなく、必ず政府(中央政府及び場合によっては地方政府)が関与することを意味する。この手続を遺伝資源取得者側からみてPICPrior Informed Consent)を取得するという。これに加えて利益配分については「相互に合意する条件で行う」とされ(同条第7 項)、これをMATMutually Agreed Terms)を締結するという。

 

3)CBD におけるABS の特徴

このようなABS に関する規定を眺めると、以下の点に気づく。

ABS は、提供者(提供国政府及び提供する自然人・法人)と取得者が個別に交渉して実施する(二国間主義)② PIC に関する国内法令はその国の領域内のみで有効なので、領域外に流出した遺伝資源には適用できない。他方、利益配分に関するMAT は遺伝資源提供者と取得者との間の民事契約に相当し、その効力は提供国の外まで及ぶ。このうち二国間主義は、遺伝資源を多くの国から取得してこれを組み合わせて交雑育種を行うような農作物(食料・農業のための植物遺伝資源)に適用されると諸手続が極めて煩雑になり、必要な遺伝資源の入手も困難になってしまうという問題を発生させる。このため食料・農業のための植物遺伝資源については、わが国が2013 年に加入した食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and AgricultureITPGRFAで別途扱っている。

 

3.名古屋議定書とわが国の対応

1)名古屋議定書への道のり

前述のとおり、CBDCOP41998 年)でABS の議論を開始した。そして2000 年のCOP5 で、ABS を促進するための国際ガイドライン作成が合意された。この結果、2002 年のCOP6 で、「遺伝資源へのアクセスとその利用から生ずる利益の公正・衡平な配分に関するボン・ガイドライン」が採択された。この議論のなかで、開発途上国からABS を確実に実施するために利用国側の責任強化を求める声が出て、COP6 のわずか4ヵ月後に開催された持続可能な開発に関する世界サミット(World Summit on Sustainable Development において、遺伝資源利用からの利益配分を促進するための法的拘束力を有する国際的な仕組み(International Regime)をCBD の枠組み内で交渉することが合意された。この結果誕生したのが、2010 年に名古屋で開催されたCOP10で採択された名古屋議定書である。

 

2)名古屋議定書の内容

開発途上国は海外に流出して利用されている遺伝資源を追跡したいという願望を持っている。これは「提供国の国内法令に域外効力を与えよ」という要求とも考えられるが、こうした要求は国家管轄権を認める国際法の原則とは相容れないものである。名古屋議定書の交渉は、「提供国の国内法が国境を越えて利用国へ渡っていくための橋をかける役割を果たすこととなる。その橋の入り口及び出口に、さらに、その前後に、何段かのドアを設け、それらのドアをどのくらい開けるか閉めるかをめぐって交渉が続いた」(磯崎 2011,p.265)というものであり、南北間で鋭く対立し、交渉は難航した。こうして誕生した名古屋議定書の重要条文は第15 条である。その第1項は、「締約国は、取得の機会及び利益の配分に関する他の締約国の国内の法令又は規則に従い、自国の管轄内で利用される遺伝資源が情報に基づく事前の同意によって取得されており、及び相互に合意する条件が設定されていることとなるよう、適当で効果的な、かつ、相応と認められる(proportionate)立法上、行政上又は政策上の措置をとる」と規定する。これをやさしくいえば、利用国政府は遺伝資源取得時のABS 交渉を自国の遺伝資源取得者(利用者)まかせにするのではなく、この交渉がきちんと行われるような国内措置をとるということである。わが国のこの国内措置が、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」(ABS 指針)であり、わが国が名古屋議定書に加入した2017 年に施行された。

 

3)ABS 指針

名古屋議定書を日本国内で実施するということは、提供国(外国)の法令が利用国であるわが国にどの程度の強さまで渡ってきてもよいかを決定するということである。この決定は、名古屋議定書の条文を正確に読んで、国内に無用の混乱を招かないように工夫された。たとえば「提供国法令」の定義である。同ガイドラインの第2がこれを定めるが、そこでは「(前略)法令であって、議定書第14条2(a)の規定により国際クリアリングハウスに提供されたものをいう」とされている。これは、提供国に国内法令があったとしても、それを海外から誰もが知り得る状態になっていなければ遺伝資源取得のための事前手続は行い難く当該提供国法令の遵守も極めて難しいので、ABS 指針の運用上は提供国に国内法令がないかのごとく扱うということである。提供国は自国の法令を国際クリアリングハウスに提供する義務を負っているが、これを果たしていない場合には、名古屋議定書の「相応と認められる」との文言に従い、ABS 指針の対象から外したのである。平たくいえば、提供国が名古屋議定書の定める義務を真面目に果たしていれば日本側も真面目に対応するが、不真面目な国には相応に対応するということである。わが国は「相応と認められる」との文言を用いる等により、外国法の無用な流入を抑えるべく、ドアの位置を適切に決めたのである。

 

4.最近のABS をめぐる議論

最後に、CBD 及び名古屋議定書やその周辺における国際的な議論を簡単に紹介する。

1)DSI Digital Sequence Information)問題

従来から、遺伝資源はモノ( 有体物、material)であるとの理解の上に議論されてきた。しかし開発途上国から、技術進歩にともなって塩基配列データなどの情報(無体物)があれば、もはやモノとしての遺伝資源がなくとも研究開発は可能で利益が発生するにもかかわらず、こうした情報利用から得られる利益が配分されていないとの主張がなされるようになった。こうした情報をデジタル配列情報(Digital Sequence InformationDSI)と称して、これをABS の対象に含めるか否かが極めて大きな問題となっている。この問題は、国際塩基配列データベース連携(International Nucleotide Sequence Database CollaborationINSDC)が掲げるオープンアクセスの方針にも大きな影響を及ぼし、ひいてはバイオ系の広範な分野に係る研究開発に甚大な影響を及ぼしうる。CBD におけるDSI の議論は、2022 年のCOP15 で一定の方向が合意された。そのポイントは、DSI の利用から生ずる利益はグローバル基金を含む多数国間の利益配分メカニズムを通じて公正・衡平に配分するが、詳細は202410 月開催のCOP16 に向けて検討するというものである。日本学術会議では、以前からDSI について検討を行っており、その結果は同会議のホームページに公開されている(日本学術会議2023)。これは英訳されてCBD 事務局にも送付された。

 

2)CBD 以外の場所におけるABS の議論

DSI を含むABS の議論は、これまでモノや産業分野別の様々な国際会議の場で行われてきたが、これらの場でDSI が共通のテーマとなっている。CBD 以外の場所におけるABS の議論を紹介するが、初めの2つはとくに農林水産分野に関連が深い。

(1)ITPGRFA

これについては前述したが、食料・農業のための植物遺伝資源の交換・利用や利益配分は二国間主義ではうまくいかないので、CBD の例外として特別に措置されたものである。もともとFAO(国連食糧農業機関)内にある食料・農業遺伝資源委員会(Commission on Genetic Resources for Food and AgricultureCGRFA)において、国際稲研究所(International Rice Research InstituteIRRI)なども含む世界のジーンバンク間で、極力自由に植物遺伝資源を交換する仕組みがあった。しかしCBD の発効によりこの自由交換の方針が維持できなくなり、これをCBD と調和させ、最終的に法的拘束力を与えて条約としてFAO から独立させたものである。ここでは同条約附属書Ⅰに含まれる主要作物を対象に多数国間の制度を用いてABS を実現しているが、DSI もからみつつ、同制度の機能改善交渉が行われている(波多野 2023, p.146)。

 

(2)CGRFA

CGRFA は、1983 年にFAO 内に設置された植物遺伝資源委員会(Commission on Plant Genetic ResourcesCPGR)を改組したものである10。以前は植物だけしか扱わなかったが、動物(家畜)、森林生物、水産生物などの遺伝資源もそれぞれの作業部会で扱うようになった。DSI についても様々な議論をしているが、近年最大の変革は、2023 年の委員会で微生物及び無脊椎動物遺伝資源を扱う作業部会の新設を決定し、この分野にも力を入れ始めたことであろう。

 

(3)その他の動き

WHO(世界保健機関)では、すでにワクチン開発における病原ウイルスについてABS を実現する仕組みがあるが、これに加えて、いわゆるパンデミック条約と呼ばれる法的文書を交渉中である。パンデミック対応として、病原体やGSDGenetic Sequence Data11 の迅速な国際共有が必要であり、2022 年に法的拘束力のある文書の作成が合意されて議論が続いている。また海洋遺伝資源については、「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国連海洋法条約下の協定」(仮訳)が2023 年6月に採択され、現在発効待ちである。この協定には、モノとしての遺伝資源とDSI の利用から生ずる利益の配分を基金経由で行う条項が組み込まれている。このほか、WIPO(世界知的所有権機関)において、遺伝資源、伝統的知識等の保護に関する国際的な法的文書の作成が交渉中で、2024年5月に採択に向けた外交会議が開催される。

 

おわりに

以上、これまでのABS をめぐる議論を概説した。こうした議論は多分に政治的なものであり、農林水産関係の研究者が日々の活動において接する海外のカウンターパートとはおそらく直接の関係はない。しかし、彼らの背後には、こうした大きな流れがあることを理解しておくことが望まれる。

 

この南北対立構造の解消は、開発途上国にとっては大きな政治課題と捉えられており、政治的な関心が低い先進国とは対照的である。わが国の生物多様性基本法に、利益配分は記載されていない。

2 同条約トップページはhttps://www.fao.org/planttreaty/en/、同条約の核心部分である多数国間の制度については、https://www.fao.org/planttreaty/areas-of-work/the-multilateral-system/landingmls/en/ を参照されたい(20231110日閲覧)。

生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書

1992 年のリオ・サミットの10 年後に開催され、リオ+ 10 ともいわれる。

PIC は提供国の国内法令に基づき発給される。遺伝資源がPIC なしに海外に持ち出されれば提供国法令に違反するが、海外に流出してしまった遺伝資源を取り締まるためには、提供国の国内法令が海外(利用国)でも有効とされる必要がある。

CBD では「事前の情報に基づく同意」と訳されていたが、英語原文は同じものである。

7 名古屋議定書に基づき整備される国際的な情報交換のためのしくみ(https://absch.cbd.int/en/)(20231110 日閲覧)。

国際クリアリングハウスに法令が掲載されていなくても、もし法令が定められていればその国の国内でそれを守るのは当然である。

Decides to establish, 中略, a multilateral mechanism for benefit-sharing from the use of digital sequence

information on genetic resources, including

10 同委員会トップページはhttps://www.fao.org/cgrfa/en/、農業分野の生物多様性に関する包括的レポートは、https://www.fao.org/documents/card/en/c/ca3129en を、また、微生物・無脊椎動物に関してはhttps://www.fao.org/cgrfa/topics/microorganisms-and-invertebrates/en を参照されたい(20231110 日閲覧)。

11 CBD DSI と呼ぶものをWHO ではGSD と呼んでいる。

 

引用文献

波多野英治(2023):食料農業植物遺伝資源条約第9回理事会の結果とデジタル配列情報に関わる今後の考察(一般財団法人バイオインダストリー協会. 令和4 年度 商取引・サービス環境の適正化に係る事業(生物多様性総合対策事業)委託事業報告書).158p.https://www.mabs.jp/archives/pdf/r04report.pdf20231110 日閲覧).

磯崎博司(2011):名古屋議定書の概略と論点(磯崎博司・炭田精造・渡辺順子・田上麻衣子・安藤勝彦編. 生物遺伝資源へのアクセスと利益配分. 信山社)290p.

日本学術会議 基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会合同遺伝資源分科会(第25 期)ならびに農学委員会・食料科学委員会合同農学分野における名古屋議定書関連検討分科会(第25期)合同会議(2023):生物多様性条約(CBD)及び名古屋議定書における遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)問題の解決に向けて.

8p. https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kiroku/2-20230323-1.pdf20231110 日閲覧).

SCBDSecretariat of the Convention on Biological Diversity2022):Digital

sequence information on genetic resourcesCBD/COP/DEC/15/9. https://www.

cbd.int/doc/decisions/cop-15/cop-15-dec-09-en.pdf20231110 日閲覧).

炭田精造・渡辺順子(2011):CBD におけるアクセス及び利益配分-ABS 会議の変遷と日本の対応(磯崎ら編. 生物遺伝資源へのアクセスと利益配分. 信山社) 290p.

炭田精造(2021):生物多様性条約と名古屋議定書の課題. けやき出版. 222p.

高倉成男(2001):知的財産法制と国際政策. 有斐閣. 362p.

 

 

(特定非営利活動法人海外植物遺伝資源活動支援つくば協議会 理事長 連絡先:akio.yamamoto.kv551@gmail.com

 

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食料・農業植物遺伝資源条約 第10回理事会の概要

 

食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)の第10回理事会(GB10)が20231120日~24日にイタリアのローマで開かれました。GB10のテーマは、生物多様性条約(CBD)第15回締約国会議(COP15)での世界生物多様性枠組み(GBF)の採択やデジタル配列情報(DSI)に関する決定を受けて、「タネが導く革新的な解決策で、私たちの未来を守ろう:持続可能な食料システムのために、GBFの実現に貢献しよう」とされました。また、ITPGRの加盟国が150ヵ国に増えたことが報告されました。

会合では、多国間制度(MLSMultilateral System)の機能向上、資金戦略、PGRFAの保全と持続可能な利用、農民の権利などが議論されました。以下、概要を掲載します。

 

1.多国間制度の機能向上

作業グループの共同議長より節目の報告があり、今後の交渉の出発点として「20196月のパッケージ案」(注1)を採用すること、また、3つの争点:デジタル配列情報(DSIdigital sequence information)、付属書MLSの対象となる作物リスト)の拡大、標準材料移転契約における支払いの方式と料率について、早期の対応が必要であるとした。理事会では、これらの方針を支持する決議をした。また、DSIの問題への対応にあたっては、CBD COP15の決議15/9(遺伝資源に係るDSIの利用から生じる利益の配分に関する決議)とその後の進展を十分考慮して対応する必要があるとした。

今後、作業グループは交渉期限であるGB112025年第4四半期予定)までに、4回の対面での公式会合と1回の非公式会合を持つ予定である。

 

2.資金戦略

 資金戦略委員会の報告を受けて理事会では、最近採択されたGBFへの対応、およびMLSの機能向上に関する交渉を支援するために、資金戦略の期間を現在の2020-2025年から2020-2027年に延長することを決議した。また、資源動員に関して、前回決定した食品加工業界連携戦略の進捗を歓迎し、引き続き最新の情報を定期的に報告するよう資金戦略委員会に求めた。利益配分基金(BSF)の運営に関して、現在進行中の第4BSFプロジェクトの結果と第5BSFプロジェクト(20235月から1100万ドル、28課題で実施中)から期待される成果を、広く広報することが重要であるとした。なお、理事会において複数の参加国の代表者より、BSFは国からの資金が主体となっており、利用者ベースの支払いが1%程度であることが問題であるとの意見が出された。

 

3.PGRFAの保全と持続可能な利用

理事会は、技術委員会の再開催を決議した。そして、技術委員会に対して、食料農業植物遺伝資源(PGRFA)の保全と持続可能な利用を定めている条約5条と6条を実施するにあたっての障害(ボトルネック)に対応するための可能な方策に関する任意のガイドライン案の作成を開始するよう要請した。

 

4.農民の権利

 理事会において、農民の権利に関する条約9条の実施状況についての評価を行うために、GB9以降、開催が途切れていた技術専門家グループを再設置するか議論となったが、最終的に同グループの再開催が決議された。そして、事務局に対して、条約9条の実施状況の評価を行い、完了させて、GB11に報告するよう求めた。また、農民の権利の実現を促進するために、技術専門家グループに対して、「選択肢(Options)」(注2)の利用をどのように促進するかについてGB11に助言を行うよう求めるとともに、その活用の検討を各国に促した。

 なお、多くの参加国の代表者から、農民の権利に関する国際シンポジウムが20239月にニューデリーで開催されたことに対して、開催国のインドに謝意が表明された。

 

その他に、事務局長より、EU等からの支援を受けて、ウクライナの種子コレクション数千点を紛争地帯の東部から安全な西部に移動させ、今後はノルウェーにあるスバールバル世界種子貯蔵庫での永久保存を含めた、長期保存計画を策定中であることが理事会で報告された。

 

注1:「20196月のパッケージ案」は、以下の報告書を参照。

 IT/OWG-EFMLS-9/19/Interim Report

 https://www.fao.org/3/ca5578en/ca5578en.pdf

 

注2:「選択肢(Options)」は、以下のGB9決議(Resolution 07/2022)を参照。

 https://www.fao.org/3/nk242en/nk242en.pdf

 

(参考資料)

GB10 レポート:https://www.fao.org/3/no194en/no194en.pdf

Earth Negotiations Bulletin

https://enb.iisd.org/sites/default/files/2023-11/enb09821e.pdf

以上

 

大川雅央

(2023年12月29日)

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農研機構遺伝資源研究センターから以下のシンポジウムの案内がありました。

 

 

10回アジア植物遺伝資源 (PGRAsia) シンポジウム (ハイブリッド開催) のご案内

 

 

 

 農研機構遺伝資源研究センターは、2020年度から農林水産省委託プロ「植物遺伝資源の

 

収集・保存・提供の促進 (PGRAsia)」を実施しています。本プロジェクトでは、アジア諸

 

国のジーンバンク等と農研機構を中心とする研究チームが連携して野菜を中心とする植物

 

遺伝資源の探索収集と特性評価を共同で行い、植物遺伝資源の利用促進に取組んでいます。

 

 シンポジウムでは、最近のプロジェクトの成果をご紹介するとともに、遺伝資源に関す

 

る講演では遺伝資源をめぐる情勢を紹介していただくこととしています。

 

 

 

皆様のご参加をお待ちしております。

 

 

 

【開催日時】:20231031() 13:0016:00

 

 

 

【会場】:文部科学省研究交流センター 国際会議場

 

(茨城県つくば市竹園2-20-5) ※対面およびZoom配信での開催です。

 

 

 

【シンポジウム概要】

 

13:00 開会 司会: PGRAsia事務局(農研機構)

 

13:00-13:05 主催者挨拶  農研機構理事 中川路哲男

 

13:05-13:10 事業委託者挨拶  農林水産省 技術会議事務局 研究企画課長 羽子田知子

 

 

 

13:10-14:20 PGRAsiaプロジェクトの概要と成果

 

 13:10-13:15 プロジェクト概要 研究代表者 杉浦誠(農研機構)

 

 13:15-13:30 植物遺伝資源探索 奥泉久人(農研機構)

 

 13:30-13:50 ウリ科野菜の成果 加藤鎌司(岡山大学)

 

 13:50-14:10 ナス科野菜の成果 松島憲一(信州大学)

 

 14:10-14:20 質疑応答

 

14:20-14:30 休憩

 

 

 

14:30-16:00 遺伝資源に関する講演

 

 14:30-15:00 「遺伝資源をめぐる国際情勢について」 潮田遼(農林水産省大臣官房)

 

 15:00-15:30 「国際農研におけるコロナ後の遺伝資源を含む海外活動」 金森紀仁(国

 

際農林水産業研究センター)

 

 15:30-16:00 「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)におけるイネ属遺伝資源の利活用促進」  佐藤豊(国立遺伝学研究所)

 

16:00 閉会

 

 

 

【参加申込】

 

参加を希望される方は、下記ウェブサイトの参加申し込みフォームより、

 

必要事項を記入して登録をお願いいたします。

 

 

 

URL:https://www.gene.affrc.go.jp/event-ws_20231031.php

 

 

 

申込締め切り: 20231024() 17

 

※定員になり次第、申込を終了させていただきます

 

 (定員:会場150名、オンライン100)

 

 

 

【お問い合わせ先】

 

農研機構 遺伝資源研究センター PGRAsia事務局

E-mail: office-PGRAsia@gene.affrc.go.jp

 

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植物遺伝資源に関する国際条約の最近のニュースをお知らせします。

 

食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)の農民の権利(9条)に関する国際シンポジウムが

開催されます。

 

20229月のITPGR9回理事会の決議7/2022において、条約の事務局に対して開催するよう要請されていました農民の権利に関する国際シンポジウムが、2023912日~15日にインドのニューデリーで開催されます。

このシンポジウムでは、農民の権利を実現するための選択肢(オプション)、その実現を支援する法的手法、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)と農民の権利、および条約9条の実施の現状について各国の経験を共有するとともに、農民の権利に関する今後の活動についても議論される予定です。

このシンポジウムの結果概要は追ってお知らせします。

 

(注)国際シンポジウムの内容は、逐次、以下のURLからアクセス可能。

 

  https://www.fao.org/plant-treaty/meetings/meetings-detail/en/c/1628023/

 

                                                                                                 以上、 

                                  大川雅央 

                               (2023年8月29日)

 

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食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)の第9回理事会(GB9)のうち、農民の権利(9条)に関する報告

 

食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)の第9回理事会(GB9)が2022年9月に開催されました。そこで議論された農民の権利に関する内容の概略を掲載します。

 

 

ITPGR・第9回理事会(GB9)の概要

―農民の権利(9条)―

 

<経緯>

 農民の権利に関する臨時技術専門家グループ(AHTEG-FR、以下「専門家グループ」)は、2017年のGB7の決議7/2017により設置された。専門家グループへの付託事項は、農民の権利の実現に関する各国措置、優良事例、課題等の一覧表(インベントリー、以下「一覧表」)の作成、およびこの一覧表を基にした農民の権利の実現を促進するための選択肢(オプション、以下「選択肢」)の策定である。同グループは、2019年のGB8の決議6/2019により再設置され、付託事項を達成するため、これまでに4回開催された。

 

GB9の概要>

 専門家グループは、20229月のGB911のカテゴリーからなる一覧表と選択肢を提出した。GB9は決議7/2022において、これを歓迎するとともに、選択肢について、カテゴリー10(法的手法)は同グループの共同議長の提案であることを明示した上で、事務局に対して公開するよう求めた。(注)

次に、締約国に対しては、選択肢の利用を促すとともに、①農民の権利の実現に影響する国の施策、特に、品種開発と種子流通に関する法令を調査し、必要があれば見直しを検討すること、②生物多様性の豊かな生産システムを推進し、たとえば、コミュニティシードバンク、コミュニティ生物多様性登録簿、参加型育種、シードフェアのような手法を、法的に認知することの検討も含めて、促進することを要請した。なお、選択肢は、「ガイドライン」のように規範的ではなく、任意でインスピレーションを与えるものと位置付けられている。

 さらに、事務局に対して、条約9条(農民の権利)の実施状況を評価するために、GB10202311月予定)にその評価指標と評価の概要を、GB11にはフルレポートを提出するよう求めた。この評価は、条約の遵守報告と一覧表における各国の報告を基に実施すべきとした。また、事務局に、インド政府がホスト国になることを申し出ている国際シンポジウム(20239月予定)を開催し、農民の権利に関する経験の共有と今後の活動について議論するよう求めた。

 

(注)一覧表と選択肢は、以下のURLからアクセス可能。

 ①一覧表:

https://www.fao.org/plant-treaty/areas-of-work/farmers-rights/inventory-on-frs/en/

 ②選択肢(決議7/2022の付属書):

 

https://www.fao.org/3/nk242en/nk242en.pdf 

                                  以上、 

                                  大川雅央

                               (2023年3月25日)

 

 

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生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15

 

生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)が2022年12月に開催されました。そこで議論された内容の概略を掲載します。

 

生物多様性条約第15回締約国会議の概要

 

生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)が、2022127日~19日にカナダのモントリオールで開催された。

本会合では、昆明・モントリオール世界生物多様性枠組(GBFKunming-Montreal Global Biodiversity Framework)の決議と、関連する遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)、資金調達等の6つの主要議題の決議が一括して採決・可決された。以下、その概要を紹介する。

 

1.GBF決議:CBD/COP15/L.25

 締約国会議において、GBFが採択された。以下、主な内容を示す。

① 2050年ビジョン:自然と共生する世界

② 2050年ビジョンの実現に向けた2030年ミッション:生物多様性の損失を止め反転させ、自然を回復軌道に乗せるための緊急な行動をとること

③ 2050年ビジョンに関する4つの2050年ゴール

  ゴールA:エコシステム、種、遺伝的多様性の保全・回復

  ゴールB:生物多様性の持続可能な利用・管理

  ゴールC:遺伝資源とそのDSIの利用から生じる利益の公正で衡平な配分

  ゴールDGBFを実現する手段の確保

④ 2050年ゴールの達成に向けた2030年ターゲット

  (緊急の行動を求める23のターゲットからなり、以下に主なものを示す。)

  ターゲット3:2030年までに陸と海の30%を保全(30by30

  ターゲット7:肥料の環境への流出や総合的病害虫管理等による農薬リスクの半減

  ターゲット10:生物多様性の持続可能な利用による農地等の持続可能な管理

  ターゲット13:遺伝資源とそのDSIの利用から生じる利益配分のための法的または政策的な措置等を採ること

  ターゲット14:生物多様性とその多面的な価値を政策や計画等に組込むこと

  ターゲット15:ビジネス業界による生物多様性への影響評価と情報公開の促進

 

2.DSI(決議:CBD/COP15/L.30

締約国会議は、GBFの一部として、DSIの利用から生じる利益配分のための多国間メカニズム(multilateral mechanism)を、世界的な基金(global fund)を含めて、構築することを決議した。

また、臨時作業部会を設置し、多国間メカニズムの構築に向けて、今後の課題(例えば、基金の運営、利益配分のトリガーポイント、基金への寄付金等)を検討してCOP16に勧告することを決議した。

なお、各締約国に対しては、今後の課題について見解を提出すること、また、事務局でそれらをまとめて臨時作業部会に報告することが要請された。

 

3.「2023-2024」資源動員戦略(決議:CBD/COP15/L.29

 締約国会議は、地球環境ファシリティ(GEF)に対して、そのゴールとターゲットの達成を支援するための特別の信託基金として、世界生物多様性枠組基金(GBF Fund)を2023年に設置するよう要請した。また、「2023-2024」資源動員戦略を採択し、この戦略においては、新たな国際的な資金調達先の一つとして、DSIの利用から生じる利益配分のための多国間メカニズムが想定されている。

                                    以上、

                                    大川雅央

 

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 食料・農業植物遺伝資源条約 第9回理事会

 

 植物遺伝資源に直接関係する国際条約には、生物多様性条約(CBD)と食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)があります。このうち、ITPGRの第9回理事会(GB9)が2022年9月に開催されました。同会合の内容の概略を掲載します。 

 

食料・農業植物遺伝資源条約 第9回理事会の概要

 

 

ITPGRGB92022919日~24日にインドで開かれた。

会合では、主に6つのテーマ、多国間制度、資金戦略、持続可能な利用、農民の権利、世界情報システムおよび遵守が議論された。

 

① 多国間制度

20139月に多国間制度(MLSMultilateral System)の機能向上に関する議論が開始されたが、2019年のGB8においても合意に至っていなかった。本会合では事務局に対して、農業植物遺伝資源(PGRFA)のMLSへの自発的な提供を促進するためのメモを作成し、そのメリット等を普及、啓蒙すること、自発的な提供の進捗状況をGB10に報告するよう要請した。

 また、標準材料移転契約の支払いレベルと義務支払いの拡大に関する評価と見直しは、GB10に延期することが決められた。

 

 さらに、MLSの機能向上に関する作業をGB11までに終わらせることが決められた。また、デジタル配列情報(DSI/GSD:Digital Sequence Information / Genetic Sequence Data)、支払い率等については早期に対応すること、および作業の進捗状況について節目の報告をGB10に提出することが決められた。

 

② 資金戦略

 資金調達に関して、食品加工業界連携戦略を作成した。この戦略では、2022-2023年にPGRFAから利益を得ている食品加工業界に対して条約の価値を分かりやすく提示すること等が計画されている。また、会合では、MLSから利益配分基金に義務支払いの入金があったが、もっと多く資金が必要であること、資金目標が未定であり、解決策が必要であるとされた。

資金の運用に関しては、これまで80のプロジェクトを支援してきたこと、第5回利益配分基金が約930USドルで2022520日に開始されたことが報告された。

 

③ 持続可能な利用

(略)

 

④ 農民の権利

(略:今後報告予定)

 

⑤ 世界情報システム

 世界情報システム(GLISGlobal Information System)は、条約17条を根拠にして構築されており、利益配分の一つの形態である情報交換を促進することでMLSに貢献する。

 MLSで利用できる約110万点のアクセション(全体の89%)に、デジタルオブジェクト識別子(DOIsDigital Object Identifiers)が付与されている。GB9では、MLSPGRFAを正確に同定するためにも、GLIS のポータル上でDOIsPGRFAに付与することを引き続き進めるよう要請した。なお、国別では、日本のNAROジーンバンクが38,960点のアクセションにDOIsを付与しており、トップ109番目)に入っている。

 

⑥ 遵守

 議論の結果、条約を効率的に実施することで、持続可能な開発目標(SDGs)、特にPGRFAの保全およびアクセスと利益配分に関する目標の2.515.6の達成に貢献すること、また、報告した72%の国は国内のPGRFAMLSに提供しているが、まだ提供の無い国に対して、今後、追加支援や能力開発が必要な分野として特定したこと、さらに、報告した28%の国しか、国内に対して付属書1PGRFAMLSに含めるよう要請していないこと等が指摘された。

 本会合で各国は2回目の条約上の義務の履行に関する報告を2023101日までに提出すること、事務局はオンライン報告システムの定期的な更新を行うこと等により各国の報告を支援すること、および、遵守手順の有効性の評価についてはGB10に延期することなどが決められた。

 

なお、GB10は、1年後の2023112025日にイタリアでの開催が予定されている。

 

(参考)GB9 レポート

https://www.fao.org/3/nk642en/nk642en.pdf

                                    以上、

                                    大川雅央

                                                2022121                                

 

 

 

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協議会の性格

TASO-PGR

海外植物遺伝資源活動支援つくば協議会は、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づき、2001年10月に茨城県より法人として認定されたNPOです。 

事務局

茨城県土浦市